第 110 回
東大寺・大仏殿から西へ少し歩いた先、静かな一角に戒壇堂と呼ばれる堂宇がある。堂内の須弥壇を四方から守るように、四体の四天王像が立つ。忿怒の相を浮かべたその眼差しは、参拝者を睨みつけているのではなく、目に見えない何かを遠く見据えているように映る。
天平勝宝六年、幾多の困難を越えて日本へたどり着いた鑑真和上は、この地に戒壇を築き、聖武太上天皇をはじめとする人々に戒律を授けた。仏道を歩む者がまずこの場で受け取ったのは、何を守り、何を為すべきかという、一つの「知」であったという。
それから千二百年余り、四天王像は表情を変えることなく、ただじっとこの場に立ち続けている。
人生において、やはり 物事を知っているのと知らないのとでは、 雲泥の差が出る。
又、たとえ知っていたしても、 実行するのと、しないのとでは全然違う。
まずは、知ることから始めよう。
無論、知ることで苦しみを抱き込むこと になるかも知れない。
しかし、勇気をもって知ろう。
知ることから全てが始まる。
堂内に足を踏み入れると、四天王像の眼差しが、今もなお何かをじっと見つめ続けているのに気づく。その先に何があるのかは、堂を出た者それぞれの歩みが、答えていくのだろう。