第 106 回
信貴山の参道は、まっすぐには続かない。
朝護孫子寺へと向かう石段は、幾重にも折れ曲がりながら山肌を縫うように続く、九十九折れの道である。赤い手すりに導かれながら一段ずつ足を運ぶ旅人は、時折立ち止まり、今登ってきた道のりを振り返る。
すると見えてくるのは、決して一直線ではなかった軌跡である。右へ折れ、左へ戻り、また右へ——遠回りに見えるその形こそが、実はこの山を登るための、ただ一つの道筋だったのだと気づかされる。
「永年回り道した」 「沢山不要な経験をした」 「真っすぐここにたどり着けば、もっと早かったのに」
さにあらず。
『虎穴に入らずんば虎子を得ず。』
経験したからこそ分かることがあり、 だからここにたどり着くことが出来た。
あなたの通った道が、 あなたにとっての(ここへの)最短ルート。
石段を登りきったところで振り返れば、蛇行しながら重なり合う道全体を、初めてひと目で見渡すことができる。麓から見上げていたときにはまっすぐには見えなかった道のりが、実はいくつもの折れ目を経てここまで続いていたのだと知る。この山が古くから「虎の寺」と呼ばれ、大きな張り子の虎が参道の傍らで旅人を見守っているのも、遠回りをいとわぬ者だけがたどり着ける場所であることを、静かに物語っているのかもしれない。