第 038 回
奈良の山深く、宇陀の室生の地に、小さな五重塔が立っている。杉の木立の中に寄り添うように、千二百年の歳月を刻んできた塔だ。
1998年の夏、台風が山を揺らし、一本の杉の大木が塔を直撃した。静かに立ち続けてきた形が、一瞬で崩れた。
だが工匠たちは、静かに材木と向き合い、新しい塔を組み直した。二年後の秋、塔は再び天を指した。傷を抱えながら、しかし以前よりも鮮やかに。
形あるものは、いつか崩れる。
それは、破壊でもなく、終結でもない。
新しい創造であり、始まりである。
崩れることを恐れる必要はない。岩も、建物も、人の心も、いつかその形を変える。だがそれは終わりではなく、次の形への渡り廊下だ。崩れた後にしか見えない景色が、必ずある。