旅の安全を祈るお寺、般若心経写経の原点『海龍王寺』【国内最小の国宝五重塔・拝観料・不退寺からの歩き方】
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前回の第6弾・不退寺はいかがでしたでしょうか?緑のトンネルの先の、時が止まったような静けさを気に入っていただけたなら、とても嬉しいです。
今回は、近鉄新大宮駅の北側にある3つの古刹を巡る旅の2つ目。不退寺から西へ徒歩約20分のところにある『海龍王寺(かいりゅうおうじ)』をご紹介します。
何とも勇ましいお名前ですが、観光客の皆様には馴染みの薄いお寺かと思います。けれどもこのお寺は、旅や留学の安全を祈るお寺として、そして般若心経の写経の原点として、1300年近く前から海を渡る人々の祈りを受け止めてきました。これから旅に出る方、留学を考えておられる方、写経に心惹かれる方に、ぜひ知っていただきたいお寺です。
海龍王寺について — 旅の安全と、写経の原点
皇后の住まいの片隅にあった「隅寺」
お寺の由緒によると、710年に都が平城京へ移された際、藤原不比等がこの地に邸宅を構えました。その時、敷地の北東の隅にあった古い寺院を壊さずに残したのが、海龍王寺の始まりです。不比等の没後、邸宅は娘の光明皇后が受け継いで皇后の住まいとなり、この寺院はその片隅にあったことから、「隅寺(すみでら)」とも呼ばれました。
平城宮(天皇のお住まいと政治の中心)のすぐ東隣にあたるこのお寺は、天皇・皇后のために祈りを捧げる宮中のお寺として大切にされてきました。お寺は自らを、奈良に都があった時代に平城宮に一番近いお寺だった、と紹介しています。
嵐の海で唱えた『海龍王経』— 旅行・留学安全祈願のお寺
このお寺の名前の由来は、一人の留学僧の物語です。
717年、遣唐使とともに唐へ渡った学問僧の玄昉(げんぼう)は、長く唐で学んだのち、734年に帰国の途につきました。ところが東シナ海で激しい暴風雨に襲われます。玄昉は船に積んでいた五千余巻のお経の中から『海龍王経』を選び、一心に唱えました。すると九死に一生を得て種子島に流れ着き、翌735年、ついに都へ帰り着いたと伝えられています。
玄昉の無事の帰国を願ってこのお寺の伽藍を整えていた光明皇后と、聖武天皇は、帰国した玄昉をこのお寺の住持に任じます。そして、『海龍王経』にちなんで、寺号が海龍王寺と定められました。以来、このお寺では遣唐使の航海の安全が祈られ、今も旅行・留学安全祈願のお寺として、旅立つ人々がお参りに訪れます。
実は、玄昉が唐へ渡った717年の遣唐使には、のちに唐の朝廷で活躍する阿倍仲麻呂や、吉備真備も留学生として加わっていました。同じ年に海を渡った仲間のうち、玄昉は嵐を越えて故郷へ帰り着きましたが、仲麻呂は帰国の船が嵐に遭い、ついに日本の土を踏むことはありませんでした。その仲麻呂の物語は、今日のひと言「今日の『良いこと』を、3つ挙げてみよう」で書きました。無事に帰ってこられることが、どれほど尊いことだったか。このお寺の祈りの重さが、少し違って見えてくると思います。
般若心経「写経」の原点
玄昉は、般若心経を広めることにも熱心で、このお寺では奈良時代、般若心経の写経が盛んに行われました。ここで写された般若心経は、お寺の別名をとって「隅寺心経(すみでらしんぎょう)」と呼ばれ、今もお寺に大切に伝えられています。のちに弘法大師空海も、唐へ渡る際に無事を祈って、般若心経一千巻をこのお寺に納めたと、鎌倉時代はじめのお寺の文書に記されています。
般若心経そのものは、唐の玄奘三蔵が漢訳したお経として、中国から伝わったものです。海龍王寺は、その般若心経を書き写す「写経」の発祥のお寺とされ、お寺によると、世の中で行われている般若心経の写経のお手本の、ほぼすべてがこの「隅寺心経」なのだそうです。境内には今も写経所があり、空海の筆と伝わる隅寺心経をお手本に、写経を体験することができます。
西大寺・白毫寺・不退寺と同じ、叡尊による再興
都が平安京へ移ると、海龍王寺は次第に衰えていきました。再び盛り返したのは鎌倉時代。第2弾でご紹介した西大寺を復興した興正菩薩叡尊(えいそん)によって、伽藍が再興されました。第4弾の白毫寺、第6弾の不退寺と同じく、ここでもまた不思議なご縁がつながりました。宗派も西大寺と同じ真言律宗です。
その後も、応仁の乱の余波や明治の廃仏毀釈で大きな痛手を受け、昭和の半ばまでは荒れ果てていたそうです。昭和40年代の修理を経て、今の静かな姿がよみがえりました。
アクセス(基本情報)
不退寺 ~ 海龍王寺(徒歩)
· 最短距離:約1.0km
· 所要時間:約20分
· ルートの特徴:元来た道を真っすぐ戻り(南下し)、県道104号線(谷田奈良線)を西向きにまっすぐ進めば到着します。
海龍王寺へのアクセス ~ 不退寺からの行き方 ~
境内を歩く — 参道から国内最小の五重塔まで
海龍王寺の表門(山門)は、室町時代の四脚門(奈良市指定文化財)です。門の位置は、かつての平城京の大通り「東二坊大路」に面しています。門をくぐると、緑に包まれた参道がまっすぐ奥へと続きます。お寺も「この風景を愛する人は多い」と紹介する、いかにも奈良のお寺らしい道です。
参道の先の門に、受付があります。ここから先が拝観料の必要な境内です。
本堂 — ほかのお寺とは、少し違う
受付を過ぎて、まず本堂へ。奈良時代の中金堂があった位置に、江戸時代(1665年ごろとも伝わります)に建てられたお堂です(奈良市指定文化財)。江戸時代の建物でありながら、奈良時代の仏堂に似た古風な造りをしています。
この本堂は、ほかのお寺の本堂とは少し違います。仏さまの安置の仕方や見せ方に工夫があって、私は一味違う印象を受けました。お寺は、仏さまを近くで拝める今の形を守るために、本堂の中での撮影とライトの使用を固く禁じています。本堂には、荒れ果てていたお寺の復興に力を尽くした先代のご住職が、自ら刻まれた四国八十八箇所の御本尊も祀られています。
ご本尊の十一面観音菩薩立像(鎌倉時代・重要文化財)は、光明皇后が自ら刻まれた観音さまをもとに、鎌倉時代に慶派の仏師が造ったと伝わる仏さまです。お寺の説明によると、衣には細かな切金の文様が施され、色鮮やかで、装身具まで精緻を極めた美しいお姿だそうです。ただし、ふだんは戸帳(とばり)越しの拝観で、お姿を直接拝めるのは、春と秋の特別公開の時だけです。私が訪ねた5月中旬も、戸帳越しでした。
そしてもう一つ。本堂に置かれている案内には、このお寺が歩んできた歴史が詳しく書かれています。表に刻まれた功績の裏側に、どんな物語があったのか。ぜひ現地で手に取って、確かめてみてください。
木々で表した「伏龍」
境内の芝生には、低く地を這うように枝を伸ばした松が並び、その間に「伏龍」と書かれた小さな立て札が立っています。海の龍王の名を持つお寺らしい、木々で表した龍の姿です。
西金堂と、国内最小の国宝五重塔
本堂の西に建つ西金堂(さいこんどう)は、創建当時からの建物です(重要文化財)。鎌倉時代と昭和に大きな修理を受けていますが、今も一部に奈良時代の木材が残っています。お寺によると、奈良時代に造られた小さなお堂で今も残っているのは、この西金堂だけだそうです。
そして、この西金堂の中に安置されているのが、私が海龍王寺で一番惹かれた五重小塔(ごじゅうしょうとう)です。
高さは4.01m。奈良時代前期に造られた国宝で、お寺の案内では「国内最小 国宝 五重塔」とされています。
まず驚いたのは、お堂の中に五重塔があるということでした。それまで私は、室内に五重塔があるなんて想像もしていませんでした。そして、見慣れた大きな五重塔に比べて小さいのだから、細かいところは簡単に作られているのだろう、と思いきや、細部まで、驚くほど精密に作られているのです。
実はこの小塔、屋内に安置して近くから拝むことを前提に造られたため、屋根の下の組物などの細部まで、忠実に作り込まれているのだそうです。では、なぜ塔を小さくしたのか。お寺の説明によると、皇后の住まいという限られた敷地の中に、大きなお寺と同じ「東西二つの塔」を備えた伽藍を持ち込むため、小さな五重塔を造って、東金堂と西金堂にそれぞれ納めたと考えられています。東金堂は明治の初めに失われ、今は西金堂の一基だけが残っています。
派手で有名な大きな五重塔と比べて、小さくて繊細なこの五重塔に、私はこのお寺が歩んできた歴史が詰まっているように感じました。
経蔵 — 叡尊の時代の高床の蔵
境内には、叡尊がこのお寺を再興した正応元年(1288年)に建てられた経蔵(鎌倉時代・重要文化財)も残っています。案内板によると、経典や文書を納めたことから、床を高くした造りになっているそうです。
このほか、境内の西北、西金堂の横には写経所があり、会津八一が西金堂を詠んだ歌の碑も立っています。
拝観案内 — 時間・拝観料・特別公開
| 拝観時間 | 9:00〜16:30(春・秋の特別公開の時は 9:00〜17:00) 閉門時間になったら退出します |
|---|---|
| 閉門日 | 8月12日〜17日・12月24日〜31日(お寺の行事のため) このほか臨時の閉門日もあり、お寺の公式サイトの「お知らせ」で案内されます |
| 拝観料 | 大人 500円/中学生・高校生 300円/小学生 100円 春・秋の特別公開の時は 大人 600円(2027年3月1日からは 700円) |
| お支払い | 受付で、現金でお納めします |
| 所要時間の目安 | 30〜45分(私の場合) |
| ご本尊の特別開帳 | 例年 3月下旬〜4月上旬・5月上旬・10月下旬〜11月上旬 (2026年の秋は 10月24日〜11月10日) |
| 写真撮影 | 本堂の中は撮影・ライトの使用とも禁止です |
| 写経 | 受付 9:30〜15:30/1枚 2,000円/予約がおすすめ(当日も受付で尋ねれば、できる場合があります) |
| 御朱印 | 拝観された方のみ、いただけます(御朱印の料金は、拝観料とは別にお納めします) |
| 最寄り駅 | 近鉄奈良線・新大宮駅から徒歩約15分(お寺の案内による) 不退寺からは徒歩約20分(写真付きの行き方) |
| バス | 奈良交通バス「法華寺前」下車すぐ(乗り場はよくある質問) |
| 駐車場 | 10台 |
※ 2026年10月、海龍王寺の公式サイトと現地の案内で確認しました。所要時間は私(まさる)の目安です。閉門日・特別公開の日程は年によって変わるので、お出かけ前に公式サイトの「お知らせ」をご確認ください。
おすすめの訪ね方 — 普段の時期の午前中に
不退寺から続けて訪ねるなら、午前中がおすすめです。境内で過ごした時間は、私の場合30〜45分ほど。境内は不退寺よりひと回り大きく、緑の参道も含めるとそれなりの広さがあります。
ご本尊のお姿を拝みたい方は、春と秋の特別公開の時期にどうぞ。ただ、お寺も「特別公開の時は本堂の中が大変混雑する」と案内しています。
不退寺から海龍王寺、そして法華寺へと順に巡る方には、特別公開ではない普段の時期、それも暑すぎない季節をおすすめします。というのも、この3つのお寺には、順にたどってこそ味わえるものがあるからです。
静けさの不退寺から、海龍王寺、そして華やぎの法華寺へ。西へ歩くほどに、境内は広がり、お堂は豊かになっていきます。海龍王寺と法華寺は、どちらも光明皇后ゆかりのお寺で、隣り合っています。由緒もよく似ているのに、まるで光と影のように対照的です。そのうつろいを、ぜひ静かな日に、順にたどってみてください。
🏨 奈良に泊まる方へ
不退寺・海龍王寺・法華寺を午前中から巡るなら、前の晩は奈良に泊まっておくと、朝からゆっくり動けます。Klookで奈良のホテルや旅館を探して、予約することができます。下は、Klookに掲載されている奈良の宿の一部です。
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季節の楽しみと、年中行事
- 雪柳(ゆきやなぎ):例年3月下旬〜4月上旬。境内の約150株が一斉に白い花を咲かせ、「大和一の雪柳」と称されます。春の特別公開の時期とも重なります。
- ご本尊の特別開帳:例年3月下旬〜4月上旬・5月上旬・10月下旬〜11月上旬。
- 四海安穏祈願法要:毎年4月18日 15時から。玄昉が都に戻った旧暦3月にちなんで行われる、お寺で最も大切な法要です。海と世の中の安らぎ、そして旅の安全を祈ります。長く途絶えていましたが、2004年(平成16年)に復興されました。
- 龍王まつり:毎年9月3日 14時から。
お寺によると、二つの法要とも、観光で訪れた方も本堂に入り、外陣からお参りすることができます。これから旅や留学に出る方は、こうした日に合わせて訪ねるのもよいと思います。
よくある質問
海龍王寺の拝観料はいくらですか?
大人500円、中学生・高校生300円、小学生100円です。春と秋の特別公開の時は、大人600円になります(2027年3月1日からは700円)。受付で、現金でお納めします。
拝観にはどれくらいの時間がかかりますか?
私の場合は30〜45分ほどでした。拝観時間は9時から16時30分まで(特別公開の時は17時まで)です。8月12日〜17日と12月24日〜31日は閉門しています。
ご本尊の十一面観音は、いつでも拝めますか?
ふだんは戸帳越しの拝観です。お姿を直接拝めるのは、例年3月下旬〜4月上旬・5月上旬・10月下旬〜11月上旬の特別開帳の時だけで、2026年の秋は10月24日〜11月10日です。日程は年によって変わるので、お寺の公式サイトの「お知らせ」でご確認ください。
写真は撮れますか?
本堂の中は、撮影もライトの使用も禁止されています。境内の参道や西金堂の外観などは、この記事のように撮影できました。なお、境内でのグループでの撮影やスケッチ、飲食は、ほかの参拝の方の妨げになるため断られています。
写経はできますか?
はい。境内の写経所で、弘法大師空海の筆と伝わる「隅寺心経」をお手本に、般若心経の写経ができます。受付は9時30分から15時30分まで、1枚2,000円です。ほかの方と一緒にならない環境を整えるため、予約がおすすめです(当日でも、受付で尋ねればできる場合があります)。
バスでも行けますか?
はい。近鉄奈良駅(13番乗り場)またはJR奈良駅(西口15番乗り場)から、奈良交通バス「大和西大寺駅・航空自衛隊前」行きに乗り、「法華寺前」で降りてすぐです。電車なら、近鉄新大宮駅から徒歩約15分です。
御朱印はいただけますか?
はい。ただし、御朱印は拝観された方のみと案内されています。御朱印の料金は拝観料に含まれておらず、別にお納めします。また、お寺によると、御朱印帳の取り違えを防ぐため、帳面に名前を書いておいてほしいとのことです。
海龍王寺の魅力
今回のレポート、いかがでしたか?
海龍王寺は、旅行・留学安全祈願のお寺です。これから旅に出る方、留学を考えておられる方に、ぜひお参りしていただきたいと思います。1300年近く前、嵐の海を越えて帰り着いた一人の留学僧の祈りが、今もこのお寺に息づいています。そして、般若心経の写経の原点のお寺でもあります。写経に興味のある方にも、きっと特別な場所になるはずです。
非常に整ったお寺でありながら、不退寺とはまた違った静けさ・わびしさを感じられるお寺です。一見華々しく見える入口から、本堂の様子、そして歴史の表側に刻まれた功績の数々。その奥には、計り知れない歴史の裏側が存在しています。その表と裏を確かめに、そして次にご紹介する法華寺との違いを確かめに、是非ここ海龍王寺にお出で下さい。
当ブログは今後も、皆さんが気づかないこんな所に、味わいのある場所がありますよ、是非一度ご自身の目で確かめにいらして下さい、ということを伝えていきます。
海龍王寺にまつわる謎解きの旅へ 🐉
海龍王寺にまつわる謎解きの旅に是非いらして下さいね。
きっと、あなただけの奈良が待っています。