第 108 回
東大寺・二月堂へと向かう参道の脇に、一本の杉が静かに枝を広げている。良弁杉と呼ばれるこの木は、幼き日の良弁が大鷲にさらわれ、この杉のもとに置き去りにされていたという言い伝えを持つ。
もっとも、今そこに立つ杉は、実は代を継いだ姿である。かつての大杉は台風で倒れ、その跡を継ぐようにして植えられた若い杉が、長い歳月をかけて少しずつ幹を太らせてきた。
参道を毎日のように通る人には、その変化はほとんど目に留まらない。今日もまた、昨日と同じ杉が、同じ場所に立っているようにしか見えない。
日々の生活の中で、 自分が成長出来ているのか心配になる?
では、こんな経験ないだろうか?
久しぶりに会った人から「変わったね!」と言われる。
言われた自分はあまり実感がない。
つまり自分自身や、 自分の近しい人の日々の変化には気づきにくい。
そう、あなたは日々確実に成長している。
けれど、久しぶりにこの参道を歩いた人は、ふと足を止める。記憶の中の姿より、幹はいくらか太く、枝はいくらか高く伸びている。誰に気づかれることもなく、杉は今日もまた、少しだけ大きくなっている。