第 100 回
春日大社、本殿を取り巻く回廊の内側に、一つの藤棚がある。
「砂ずりの藤」と呼ばれるこの藤は、樹齢700年以上と伝わる。毎年5月上旬になると、花房が1メートルを優に超えるまで伸び、地面の砂にすれるほど深く垂れ下がる。
周囲に植えられた藤も、同じ棚の下で、同じ陽の光を浴びて育つ。それでもこの一本だけが、他のどの花房よりも長く、低く、ひたすら地面へと伸び続けてきた。
巷では、『人と同じことをしていてはダメ』とよく言われる。
言い換えれば、大勢が左を向いている時に、右を向く勇気もいる、ということ。
しかし、それは思っているほど容易ではない。
自分の内と対話し、他人との距離感を絶妙に保ちつつ、人と違うことをしてみよう。
砂ずりの藤は、今日もどこまでも垂れ下がっている。誰かに合わせるでもなく、ただ自分の伸びたい長さまで、静かに伸び続けているだけなのかもしれない。