第 094 回
奈良と大阪を結ぶ暗越奈良街道は、生駒山を越えて続く古くからの峠道である。険しい坂に敷かれた石畳には、荷を担いだ商人、遠い社寺を目指す参詣者、故郷への道を急ぐ旅人——数えきれない人々の足跡が、幾重にも刻まれてきた。
一つ一つの石は、もとは同じように無骨で角ばっていたはずだ。それが今、鈍く光を照り返すほどに滑らかなのは、誰か一人の力によるものではない。名も知らぬ旅人たちが積み重ねてきた、無数の一歩の跡である。
峠を越えた先に何が待っているのか、最初の一歩を踏み出す時、旅人はまだ知らない。それでも人は歩き続け、その一歩一歩が、やがて誰にも奪えない何かへと変わっていく。
経験こそ、生まれて来た目的。
お金で買えないとても尊いもの。
あなたの今までの経験は、なにものにも代えがたい。
これからも、沢山の新しい経験をしよう。
きっと、あなたの財産になる。
石畳を踏みしめるたび、旅人の中にはまだ誰も気づいていない何かが、静かに積み重なっていく。