第 062 回
明日香村のはずれに、飛鳥寺がある。推古天皇の時代に建てられた、日本で最初の本格的な寺院だ。
夏の終わりの夜明け前、辺りはまだ深い藍色に沈んでいた。田んぼを渡る風だけが動いていて、遠くで蛙の声がしていた。茅葺きの屋根の輪郭が、かすかに空の端から浮かび上がっている。
東の稜線が、少しずつ明るみを帯び始めた。まだ色はない。ただ、暗さの質が変わっていくのがわかった。
『形あるものはいつか壊れる。』
『この世に永遠なものなどない。』
自分の環境であっても、人間関係であっても。
それが自然の摂理。
決して、恐れる必要はない。
明けない夜はない。そして、夜明け前が一番暗い。
夜明けは静かにやってくる。誰に告げることもなく、少しずつ。気づいたときには、もう空が白み始めている。