第 055 回
奈良公園の南東、鷺池に浮かぶ浮見堂は、池の中ほどにひっそりと立っている。八角形の小さな建物で、細い木橋を渡ってしか入れない。池面には空が映り、風が渡るたびに水が揺れ、岸の柳がその葉先をそっと水に浸ける。
朝の散歩の途中に立ち寄る人、犬を連れて橋の手前で足を止める人、仕事帰りに遠回りしてここへ来る人。みんな当たり前のようにこの池のそばを通り、当たり前のように帰っていく。
日頃なにげなく、
会っている人、
とおっている道、
かよっている場所。
そんな人や、道、そして場所に、
2度と会えなくなる、とおれなくなる、かよえなくなる、
そんな時がある日突然やって来る。
だから、いつもの生活こそ『一期一会』の精神で生きよう!
「また明日も来ればいい」と思ったわけでも、「最後かもしれない」と考えたわけでもなく、ただそこにいた。その当たり前が、実は当たり前ではないことに、人は後から気がつく。