第 041 回
奈良の中心部、観光客の声がわずかに遠のく場所に、ならまちの路地がひっそりと続いている。細い道をたどっていくと、静かな境内が現れる。元興寺だ。
この寺の本堂の屋根を仰ぐと、奈良時代に焼かれた瓦が、今もそのままはめ込まれているという。千三百年以上前の職人の手によって作られ、幾度も補修されながら、それでも変わらずそこに在り続けた。
褒められようとしているわけでも、目立とうとしているわけでもない。ただ、静かにそこに在る。
「前例がない?」
では、前例になればいい。
しかし、それは何も『大それたことをやらなければならない』ということではない。
『周囲の目を気にせず、あなたらしく在れば良い』ということ。
「前例がある」とは、誰かがかつて最初にそれをした、ということでもある。その最初の一歩も、当時は前例のない一歩だったはずだ。元興寺の瓦のように、ただそこに在り続けることが、後の誰かの道しるべになっていく。