第 082 回
東大寺の西の外れ、佐保路に面してひっそりと立つ転害門。天平の創建以来、幾度の戦火や災禍をくぐり抜けながら、今なお建立当時の姿をとどめる、奈良に残る数少ない古建築のひとつである。
門の前に立つと、太い円柱と大きな瓦屋根が、思いのほか静かにこちらを見下ろしている。錠前もなければ、番人もいない。ただ木と石でできた枠が、そこにあるだけだ。それなのに、一歩を踏み出す前に、なぜか足がすくむ瞬間がある。
見上げれば、門の上を渡っていく雲や、軒先をかすめて抜けていく小鳥の姿が見える。彼らはためらうことなく、その空間をすり抜けていく。留めているものなど、はじめから何もなかったのかもしれない。
誰かに裾を踏まれてる? → いえ、自分で自分の裾を踏んでいる。
誰かに捕らわれてる? → いえ、自分で鳥かごに入っている。
誰かにはめられてる? → いえ、自分で手かせ・足かせをはめている。
自由になりたい? → じゃあ、行動するだけ。
あなた以外に、あなたをさえぎるものはない。
一歩踏み出してくぐり抜けると、さっきまで重く見えていた梁が、ただの木材に戻る。振り返れば、門はいつもと変わらぬ姿でそこに立っているだけだった。動いたのは、門ではなく自分の足だったのだと、遅れて気づく。