第 076 回
ならまちの外れ、南京終町に近い一角に、十輪院という小さな寺がある。本堂には、鎌倉時代に築かれた石仏龕(せきぶつがん)という珍しい石造りの厨子が納められている。
中央には地蔵菩薩が刻まれ、その周りを十王・四天王、さらには名も知れぬ小さな像までもが、隙間なく取り囲んでいる。像の一つひとつを見れば、大きさも表情もまるで違う。輪郭のくっきりした像もあれば、長い年月に風化して、もはや誰の姿かも判然としない像もある。
だが、その石龕全体をひと目で眺めると、どの像が欠けても、この静かな迫力は生まれないだろうと思えた。目立つ像も、目立たない像も、すべてがそこにあるべくしてある——堂内には、ただそんな気配だけが満ちていた。
この世に要らない人間なんて1人も居ない。
あなたの嫌いなあの人も、周囲に迷惑ばかりかけるあの人も。
認めたくなくても、そんな人たちも社会を構成する内の1人であり、
この世に必要な人間の1人である。
己の定規で、人を裁いてはいけない。
他人はあなたを映す鏡だ。
石龕を出て振り返ると、堂内の薄暗がりに、無数の像がまだ静かに並んでいた。誰かを裁く声は、そこには一つもなかった。ただ、それぞれがそこに在り続けているだけだった。