第 075 回
頭塔は、奈良市高畑の住宅街にひっそりと佇む、奈良時代に築かれた特異な石積みの塔だ。当時は仏教修行の場として多くの人が訪れていたというが、今では細い路地を一本入るだけの静かな一角に、その姿を残すのみとなっている。
段状に積まれた石の表面には、風化した石仏が点々と刻まれている。小さな案内板がなければ、通りすがりの人はここがかつての聖地だったと気づかないかもしれない。
夏の昼下がり、蝉時雨の中でその石段を見上げた。かつての賑わいを知る由もないが、石は今もそこにあり、ただ静かに時を重ねている。
よく巷で、「○○(=場所)が以前と比べ、面白くなくなった。」といったぼやきを聞く。
しかし、良かった時と比較をすると心がしんどくなる。
この世は成るべくして成っている。
又、同じ場所であっても永遠はなく、常に変化していく。
だから、1日1日が『一期一会』なのである。
かつての姿を知らずとも、この場所は今日も確かにここにある。それでいい、と石段は語っているようだった。