奈良市の西部、近鉄富雄駅からバスで八分ほどの山あいに、霊山寺がある。奈良時代、聖武天皇の願いによって開かれたと伝わる寺で、大仏開眼の導師を務めたインドの僧、菩提僊那が、この山のたたずまいが故郷の霊鷲山に似ていることから、霊山寺と名づけたという。鎌倉時代に建てられた本堂は国宝、檜皮葺の三重塔は重要文化財で、ふたつは今も、小さな谷をはさんで向かい合っている。
境内の入り口近く、道の北側に、昭和三十二年に開かれたバラ庭園がある。二百種、二千株のバラが植えられ、春と秋に花を咲かせる。春のバラは、大きな花がいっせいに咲くが、秋のバラは、そうではないという。気温が下がるぶん、つぼみがほころぶまでに時間がかかり、そのぶん、色は深く、香りは豊かになるのだそうだ。
秋のバラの庭では、同じ株の中でも、深い紅色に開ききった花のすぐ隣で、固いつぼみが、まだしっかりと口を閉じていることがある。バラの手入れでは、夏の終わりに枝を切りそろえることが多いという。そこから先、いつ花が開くかは、それぞれの株にまかされている。
他人に対し、「なぜ言った通りにしないんだ?」とか、 「いつまでぐずぐずしてるんだ?」と嘆くことなかれ。
どれだけ素晴らしいアドバイス、その人にとって 為になるアドバイスであっても、 人間は自分がやると決めなければその行動は起こさないものだ。
人にはその人のタイミングというものがある。
そして、人生には自分の自由と責任が同居する。
それを尊重して優しく見守ってあげよう。
庭をひとまわりして、入り口のほうへ戻る。さきほど見た固いつぼみは、まだ閉じたままだ。道をはさんだ向かいの石段の上には、三重塔が静かに立ち、こちらの庭では、秋のバラが、それぞれの速さで開いていく。霊山寺の庭には、急ぐものが、何ひとつない。