第 134 回

あなたに合った登り方でいい

奈良公園の東の端に、若草山という芝の山がある。標高は、三百四十二メートル。笠を三つ重ねたような、なだらかな三段の丘で、いちばん上は三重目と呼ばれる。ふもとには、南と北、二つのゲートがある。そこで小さな料金を払い、それぞれの道から、山頂を目指して登っていく。

南のゲートから入ると、道はすぐ、開けた芝の斜面にかかる。草を刈られた急な坂を、階段づたいに、まっすぐ上へ。息を切らしながら、ほとんど前だけを見て登っていく人がいる。階段をはずれ、芝の上を斜めに横切って、最短の線をたどり、直登していく人もいる。北のゲートから入ると、道は林の中へと入り、木陰の下を、ゆるやかに折れながら続いていく。こちらを選んだ人は、二重目のあたりで足を止め、鹿が草をはむのを眺めたり、少しずつ広がっていく奈良の街並みを見下ろしたりしながら、ゆっくりと登っていく。

どの道をたどっても、やがて三重目に出る。山頂には、鶯塚と呼ばれる古い墳丘が、芝におおわれて横たわっている。振り返れば、大仏殿の大屋根、奈良の市街、その向こうに生駒の山なみまでが、ひとつづきに見渡せる。日が傾くころには、芝の色が金色を帯びて、風が、坂の下から吹き上げてくる。

人生における夢や、目標を山の頂上と例えれば、 その頂上にどう登るかは、人それぞれである。

一直線に脇目も振らずに最短距離で登るのも良し、 ゆっくりと道中の草花や、生き物、そして景色を 楽しみながら登るのも良し。

どちらが正解というのではないのである。

あなたに合った登り方でいい。

どう生きるかは、あなたの自由である。

山頂には、休みながら登ってきた人も、一気に駆け上がってきた人も、思い思いの場所に腰を下ろしている。着いた時刻はまちまちで、どれくらいの時間がかかったのかも、たぶん本人しか知らない。それでも、同じ夕日が、みんなの背中をあたためている。芝をなでる風の音だけが、山のあちこちで、静かに続いている。

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